経営戦略を考えるとき、最初に何から始めるべきか迷う方も多いのではないでしょうか。ゼロから自社の成長戦略を立てるのは非常に大変で、時間も労力もかかります。そこで、最も成果が出やすく、しかも取り組みやすいのが 「競業分析（ベンチマーク分析）」 です。

本記事では、「なぜ競業分析から始めると戦略がラクになるのか？」「どのような手順で進めればよいのか？」を、経営者や戦略担当者の視点から詳しく解説します。

競業分析とは何か？｜まずは“型”を手に入れる

競業分析とは、同じ業界・同じ市場で成果を上げている企業の取り組みを調べ、構造的に分解していくプロセスです。これにより、成功の背景にある仕組みや要因を可視化し、自社の戦略設計に活かすことができます。

例えば、以下のような視点で他社を分析します：

・ビジネスモデル（収益構造）
・顧客ターゲット
・提供サービス・商品構成
・集客手法（Web／オフライン）
・ブランディングやポジショニング
・社内組織の構造や採用方針

つまり、成果を出している企業をベンチマーク（参考指標）とし、自社に活かせるヒントを抽出する作業です。この“型”を手に入れることで、戦略の立案における道筋が明確になります。

ゼロから考えるより“圧倒的に速い”

ビジネスにおいて最も貴重な資源の一つは「時間」です。ゼロからオリジナルの戦略を考えるのは、確かに理想的かもしれませんが、現実的には膨大な時間とコストがかかります。

そこで役立つのが競業分析です。成功している企業を分析すれば、**すでに成果が出ている「型」や「勝ち筋」**を見つけ出すことができ、それを参考にすれば、自社の戦略を“最短距離”で構築することが可能になります。

たとえば、マーケティング施策の設計においても、競業がSNS広告を重視しているのか、メールマーケティングを軸にしているのかを把握することで、自社の施策設計にかける時間を大幅に短縮できます。思考の初期段階において、成功事例をベースに考えることは、戦略設計を加速させる強力な手段です。

自社の“盲点”に気づける

競業分析のもう一つの大きな価値は、「自分たちでは気づけなかった自社の弱点や機会」に目を向けるきっかけになることです。特に、社内にいると当たり前になってしまっている仕組みや価値観は、外からの比較なしにはなかなか見直せません。

たとえば、競業が最新のデジタルツールを駆使して顧客管理をしているのに対して、自社はExcel管理のままだったり、サービスの説明が競業は動画ベースなのに対し、自社は文字のみだったりする場合、それが“盲点”であり、成長のボトルネックになっていることが多いのです。

このように、他社との比較を通じて「うちの当たり前＝業界の非常識」という事実に気づければ、戦略上の打ち手が一気に広がります。

“真似る”のが目的ではない｜差別化のヒントを得る

競業分析と聞くと、「真似をする行為」「オリジナリティがなくなる」といったネガティブな印象を持たれることもあります。しかし実際には、模倣ではなく“ズラす”ために競業を知るという視点が重要です。

競業を研究することで「顧客が求めている最低ライン（期待値）」を把握できると同時に、そこに“あえて”違いをつくることで、独自性が生まれます。

たとえば、他社が「スピード納品」を強みにしているなら、自社は「徹底的なカスタマイズ対応」を強みにする。逆に、他社が大衆向けなら、自社はあえてニッチ市場に特化する。こうしたズラし方が、結果的に強力な差別化につながるのです。

ベンチマークは「1〜2歩先」の企業が最適

競業分析を行う上で、重要なのが「誰をベンチマークにするか」です。GoogleやAmazonのような巨大企業を参考にしても、規模・資金・人的資源の違いから、実行可能性に乏しいことが多いのです。

最適なのは、自社と比較的近いステージにありながらも、少しだけ成果を上げている“1〜2歩先”の企業です。こうした企業の取り組みは、自社でも応用可能であり、現実的に取り入れやすい特徴を持っています。

また、このような企業は、既に自社が直面している課題をクリアしていることが多いため、そこから得られる学びは非常に実践的です。真似るというよりは、“先輩企業”として参考にする感覚が理想です。

【実例紹介】競業分析で成果を出したケース

たとえば、地方都市で飲食店を経営していたA社は、同業で東京に店舗展開しているB社をベンチマークに設定しました。B社はSNS運用が非常に洗練されており、インスタグラムでの“映え写真”や、TikTokでの店舗紹介動画などを駆使して集客していました。

A社はこれを分析し、どの投稿が人気か、どの時間帯に投稿されているか、ハッシュタグの使い方などを詳細に研究。自社の地域性や顧客層に合わせてローカライズし、ビジュアルの強化と投稿戦略の刷新を行いました。その結果、半年でフォロワー数が3倍に増加、来店予約数も前年比で180％を記録しました。

このように、競業の成功要素を自社にフィットさせて取り入れることで、大きな成果につながるのです。

ChatGPTなどのAIを使った競業分析術

近年はAIの進化により、競業分析もよりスピーディかつ高度に実施できるようになりました。たとえば、ChatGPTやClaudeなどのAIツールを使えば、競業のWebサイトやSNS投稿を読み込ませて、瞬時に要点を整理してもらうことが可能です。

具体的には、以下のようなプロンプトが有効です：

・「この会社のサービスの特徴を5つに要約して」
・「この企業の顧客ターゲットと訴求ポイントを抽出して」
・「競業3社の差別化ポイントを比較して」

これらを駆使すれば、人的リソースを多く使わずに精度の高い競業レポートを作成できます。また、AIによる要約や分析は、チーム内の認識統一にも役立ちます。

競業分析→戦略設計のテンプレート【行動につなげる3ステップ】

競業分析をしただけでは成果は生まれません。重要なのは、「気づき」を「行動」へと結びつけるプロセスです。以下の3ステップを意識することで、戦略として実装しやすくなります。

① 差分を社内で共有する

競業と自社の違いを明文化し、関係部署やチーム内で共有します。この段階で「なぜその差があるのか？」を議論することで、施策の意義がより明確になります。

② 最もインパクトがありそうな1施策を試す

やるべきことが多く見える場合こそ、「まずは1つ」に絞りましょう。小さく試して、大きく育てる“スモールスタート”の原則です。実行性の高い施策から順に取り組むことで、早期の成果が期待できます。

③ 成果検証のKPIを設定する

施策の効果を測定するための指標（KPI）をあらかじめ設けておきます。たとえば、サイト訪問者数、問い合わせ数、CVRなど。PDCAを回す体制を整えることで、施策の質がどんどん向上していきます。

まとめ｜戦略に迷ったら“調べる”が勝ち

戦略設計は、決してセンスやひらめきだけで決まるものではありません。むしろ、「うまくいっている構造」を徹底的に分析するほうが、遥かに効率的です。

迷ったときはまず、「1〜2歩先を行く競業」を徹底的に分解してみてください。きっと、これからの方向性が自然と見えてくるはずです。